2021.04.23|その他
熊本県庁友会会報誌に寄稿しました
熊本県庁のOBや現役職員が加入している一般社団法人で「熊本県庁友会」というのがあります。
会員同士の親睦や交流などが目的の組織なのですが、定期的に会報紙を発行されています。
4月発行の会報誌に「熊本県庁を退職して農業に従事している現在までのことを記事に書いてほしい」と、私に打診がありました。
つい先日発行されたばかりで、主に県庁関係者しか目にする機会はないのですが、せっかく時間を割いて書いたので(笑)、ブログにも掲載したいと思います。
当初は、結構砕けた感じで書いてたのですが、紙幅の都合上、余計な表現はカットせざるをえませんでした(;’∀’)
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庁友会の元気モン
新たな農業への挑戦
県職員から農家に転身
「よく決断できたね、おめでとう」
上司のひと言を、今でもよく覚えています。
私は、熊本地震発生半月前の平成二十八年三月末に県庁を退職しました。
現在、山都町で「梶原耕藝」という屋号で農業を営んでいます。
夏秋トマトや米を中心に、露地で有機野菜も栽培しています。
「なぜ公務員を辞めて農業をしようと思ったんだ?」人に会うたびによく訊かれるこの質問の答えは、主に次の二つです。
・三Kの代名詞と言われる農業も、やり方次第で大きく飛躍できるポテンシャルがあると感じたから。
・農業をクリエイティブな職業として次の世代にバトンタッチしたいから。
県庁職員として業務に携わりながら、私は、三十歳代の頃から退職を考えるようになりました。
特に県庁が嫌いになったからではありません。
上司にその意思を伝えると「もう一年ゆっくり考えてみないか」とおっしゃいました。
本当にありがたく、私の身を案じてのことだと思います。
ただ、一年経っても私の気持ちは変わりませんでした。
組織で働くのとは違って、仕事上の責任も結果も全て自分で負わなければならないことへの不安や、親しくさせていただいた方々と別の道を歩むことの寂しさもありました。
それでも、チャレンジしたい気持ちの方が上回ったのです。
職員の皆さんの反応は、肯定的に受け止めた方が大半でした。
「新たな道を選択したあなたを尊敬する」と言われた上司もおられました。
人は誰しも、大なり小なり葛藤を抱えながら、自分にとって最良の道を模索し続ける・・それが人生なんだと実感しました。
一方で、私に思い留まるように言われた方もおられました。心配してくださる方のためにも必ず成功して、「辞めて正解だったね」と思ってもらえるようになろうと、決意を新たにしたものです。
農業の壁と新しいカタチの模索
農業の世界に飛び込んで五年近く経ちますが、決して順風満帆で進んでいるわけではありません。
さながら農業界という大海の中を、大波小波に揺られて進む小舟のようです。
最初にして最大の壁は、親との農業観の違いです。
若い頃から五十年も農業に携わってきた両親と、違う世界から飛び込んだ自分とでは、農業の捉え方が違うのは当然です。
ただ問題は、世代交代の時期を迎えているにもかかわらず、後継者が経営の実権を握らせてもらえない。自分のやりたい農業を追求できない。親元就農“あるある”です。
「農業は儲からない」「農業は休みがない」「サラリーマンの方が金になるぞ」
幼い頃から両親にそう刷り込まれた私にとって、農業は人生の選択肢にありませんでした。
そんな私が、いつの間にか農業に携わっているのですから皮肉なものです。
自分で選択したのだからこそ、農業の未来を常にポジティブに捉えたい。
人間の健康を保ち生命を支える農業という職業は、本来、尊敬され豊かであるべき。
だけど、同じように人間の生命を支える医業と比較すると、所得水準に大きな格差がある。
「農業なんてそんなもんだ」多くの農家はきっとそう言うと思います。
でも、絶対におかしいと思う。
農家自身が悲観している農業の未来は、自分の手で変えなければならない。
農業に壁があるからといって、ただ眺めていても越えることはできません。自分なりの新しい農業のカタチを模索しています。
中山間地農業の現状
令和元年度には、くまもと農業経営塾で農家が経営者に脱皮するためのマインドセットの必要性について、勉強しました。
「新しい農業をやりたい」「経営者になりたい」と同じ志を持つ若手農家との出会いは、今大きな励みになっています。
農業経営塾などを通じて、優れた農業経営者の話を伺ってきましたが、そこに共通しているのは、従来の農業界の常識に囚われない柔軟な発想と、周囲の評価を恐れず実行する意志の強さです。
地元のベテランの農家から見れば、新規就農者の私などまだまだ未熟者でしょうが、農外から参入した私には、農業はこうあるべきだという先入観が少ない。
これは私の強みだと考えています。
今、故郷は明らかに活力が衰退しています。
山都町のような中山間地では、通常の生産活動だけでなく、水路や農道の補修・整備なども必須ですが、その主体となる地域の担い手が減少・高齢化しているので、今後ますます生産条件が不利になるばかりでしょう。
鳥獣害もずいぶん増えてきました。
被害は田畑だけではありません。
帰郷してから二度、イノシシと衝突して車を修理しました。
学生だった頃、とにかく早く外に出て違う世界を見たい・・・ただそれだけでしかなかった故郷も、今は自分が引っ張っていきたいと思えるようになった。
帰郷してから出会った多くの若い友人も、これまで田舎になかった新しい発想力で、山都町をステキでおもしろい町にしようと行動しています。
私たちの存在がある限り、山都町はきっと大丈夫です。
県職員だった時は、多くの方々に支えられ、またご迷惑もおかけしてきました。
そのお詫びとして、今後仕事で結果を出し、元気に活躍する姿をお見せすることでお返しします。
新たなスタイルの農業へ
農業者にとって、生産技術を高めるための努力は必要です。
ただし、品質の良い農産物を作りさえすれば売れるような時代ではないと感じています。
今後目指そうと思っている農家像は、お客様に対して自分で決めた価格で、直接商品を届けることができる農家です。
農業が儲からないと言われる一番の要因は、自分の農産物の価格を自分の意思で決められないことに尽きると身に染みて感じています。
「あなたの作ったトマトが欲しい」
そう言っていただくために、自分がどんな理念で農業と向き合っているのかを知っていただきたい。
そのためには、自分の成功も失敗もすべてさらけ出しつつ、常に情報を発信して、お客様とのつながりを構築していくことが肝要だと考えています。
農家になって、県庁時代とあまり遜色ないくらいパソコンと向き合う時間を取っています。
”パソコンとスマホは農機具”これは私の持論です。
昨年、自身のWEBサイトを開設し、インターネット販売にも着手しました。
段階的にではありますが、直接販売にも注力していきます。
また、WEBサイト内のブログでは、私の日常の様子や想いを書いています。
県庁時代に鍛えられた文章作成スキルが、こんなところで活かせるなんて、人生どう転ぶかわかりません。
ぜひご一読ください。
梶原耕藝WEBサイトhttp://kajiwara-kougei.com/
県職員へのメッセージ
住民は思っている以上に、県職員のことを尊敬し、頼りにしています。
一民間人となって住民の生の声を聞いた私の偽らざる心境です。
私が県庁時代に一緒に仕事に関わらせていただいた方々は、優秀で実直、そして公利を重んじる方ばかりでした。その時教えられた、仕事に向き合う姿勢や様々な業務で身につけた知識・経験は、今でも私の貴重な財産です。
これから私は、農業経営者として、地域を支える立場の人間として、いろいろな場面で県庁の皆様にお世話になる機会があるかと思います。
“県職員の立場を理解できる民間人”として職員の皆様に感謝の気持ちをこめつつ、益々のご活躍を応援しています。
梶原耕藝 代表梶原甲亮(かじわらこうすけ)
1976年生まれ(43歳)。熊本県山都町在住。代々続く農家の7代目。九州大学法学部政治学科を卒業して熊本県庁に就職。子供が生まれ、食への関心が高まると共に「安心安全な食べ物を届けたい」「農業を夢のある仕事にしたい」という想いでUターン。現在、3兄弟の父親として日々学びながら農業を取り組んでいます!
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