梶原耕藝

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2021.11.23|農家の日常

権利の上に眠るものは、保護に値せず

田んぼへのイノシシやシカの侵入を防ぐため、電気柵を設置しました。

田んぼは所有者が細かく分かれている場合が多いので、それぞれの家ごとに電気柵を張るより、共同で張った方が経済的で管理もしやすくなります。

ガイシという電気コードを支える器具を支柱に取り付け、田んぼの周囲に支柱を等間隔で立てて、電気コードを張っていく作業で、丸一日かかりました。

以前は田んぼだったところも、耕作する人がいなくなり放棄地になって、今は竹やぶになっています。

こういう耕作放棄地がイノシシやシカの隠れ家になるので、さらに侵入されやすくなる悪循環です。

せめて所有者の方が、年1回でも草を切ったりして管理してくれれば、それだけ周囲の田んぼに侵入されるリスクを減らすことができるのですが、所有者は既に地元におられなかったりするので、それも難しい。

かといって、他人の土地なので、私たちが勝手に草を切ることもできない。

結果、イノシシたちの隠れ家となり、そのぶん防護柵を張らなければならない。

何ともやるせない気持ちになります。

電気柵を張りながら、自分が学生だった頃に聞いたある言葉を思い出しました・・・

法律を学ぶと一度は耳にする格言ですが、

『権利の上に眠るものは、保護に値せず』

という言葉があります。

本来は、民事上の時効制度を正当化する根拠の1つとして使われることが多いのですが、

「権利を行使できるのに、ずっと放置しているようであれば権利をはく奪する」

という意味です。

たとえば、人が他人に金を貸した後に、一切請求をしないまま一定期間が過ぎると、時効を迎えて請求権が消滅するようなケースがあります。

これは、請求権を行使できるのにしなかった事実を重く見て、請求権を認めないという考え方から来てます。

放置された田んぼの所有者には、当然ながら耕作するしないを決める権利があるので、放置されても周りはどうこう言う立場にはない。

一方で、放置されたがゆえに周りが獣害に遭うケースが増えてきた事実がある。

仮に自分たちが勝手に放棄地に入って、草を切ったり電気柵を立てたりワナを設置したりしたら、所有者から撤去するよう求められるだろうか。

(本来、所有権はそういうものなんですが・・・)

土地の所有権に消滅時効はありませんが、既に何十年も放置された土地の所有権を、私たち地元に住む者はどこまで優先しなければならないのか。

手をつけられない放棄地を眺めながら、物思いにふける一日でした。

梶原耕藝 代表梶原甲亮(かじわらこうすけ)

1976年生まれ(43歳)。熊本県山都町在住。代々続く農家の7代目。九州大学法学部政治学科を卒業して熊本県庁に就職。子供が生まれ、食への関心が高まると共に「安心安全な食べ物を届けたい」「農業を夢のある仕事にしたい」という想いでUターン。現在、3兄弟の父親として日々学びながら農業を取り組んでいます!

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